慰謝料|1級慰謝料4200万円(青森地裁平成12年5月25日判決)

慰謝料|1級慰謝料4200万円(青森地裁平成12年5月25日判決)

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慰謝料|1級慰謝料4200万円(青森地裁平成12年5月25日判決)

被害者 60歳女子  
慰謝料額 入通院慰謝料  400万円
  後遺症慰謝料 3,200万円
  近親者慰謝料 600万円

青森地裁 平成13年5月25日判決

自動車保険ジャーナル・第1403号


(主   文)

  1. 212号事件、72号事件被告らは、212号事件原告に対し、連帯して金9、846万1、269円、及び、内金9、449万5、516円に対する平成9年8月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 2 212号事件、72号事件被告らは、72号事件原告らそれぞれに対し、連帯して金290万円、及び、これに対する平成9年8月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 212号事件原告及び72号事件原告らのその余の請求をいずれも棄却す

    る。

  4. 訴訟費用は、これを10分し、その9を212号事件、72号事件被告らの、その余を212号事件原告及び72号事件原告らの負担とする。
  5. この判決は、第1及び第2項に限り、仮に執行することができる。

(事実及び理由)


第一 請求

(212号事件)

212号事件、72号事件被告らは、212号事件原告に対し、連帯して金1億0、600万7、788円、及び、内金1億0、204万2、035円に対する平成9年8月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(72号事件)

同被告らは、72号事件原告らそれぞれに対し、連帯して金300万円、及び、これに対する前同日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。


第二 事案の概要

本件は、交通事故により長期にわたる加療を要する重傷を負った被害者が、加害
車両の運転手に対しては不法行為に基づき、同車両の保有者に対しては自賠法
3条に基づき、損害賠償を請求し、また、被害者の近親者らが加害車両の運転者及び保有者に対し、同様にして慰謝料を請求した事案である。

  1. 争いのない事実等

    以下、当事者については、212号事件原告を原告かずゑ、72号事件原告平礼
    子を原告礼子、同原告前田一彦を原告一彦、212号事件、72号事件被告立山宏子を被告立山、同被告中里政勝を被告中里と略称する。


    (一)原告かずゑは、平成9年8月23日午前9時35分ころ、原動機付自転
    車(五戸町き835号。以下「原告車両」という。)を運転して、青森県三戸郡五
    戸町字古館向23−2付近道路を上市川方面から沢向方面に向かい進行し、同所先の交差点(以下「本件交差点」という。)に至り右折しようとしたところ、前記道
    路を同一方向に向かって、原告車両の後方から進行してきた被告立山運転の被告中里が保有する軽四輪貨物車(八戸40け6838号。以下「被告車両」という。)
    が原告車両に自車左前部を衝突させ同原告を負傷させた(以下、「本件事故」とい
    う)。



    (二)原告かずゑは、上記事故により、頭部外傷、頭蓋骨骨折、脳挫傷、急性
    硬膜外血腫、右鎖骨骨折、右耳出血、症候性てんかんの傷害を負った。同原告は、事故後、十和田市立中央病院に平成9年8月23日から同年11月4日まで74日、五戸総合病院に同年11月5日から平成10年4月8日まで155日の計229日間入院し、平成10年4月9日から平成11年9月6日まで516日間通院し、同日症状固定した。しかし、同原告は、本件の後遺症として、痴呆、尿失禁、耳鳴り、頭痛等の精神障害により2級3号、視力障害により2級1号、以上併合1級の症状を残した。原告礼子は、原告かずゑの次女であり、原告一彦は、原告かずゑの長男であり、同期間中原告かずゑを介護した。



    (三)原告かずゑは、本件事故に対する損害賠償として、平成12年4月13
    日、自賠責保険から3、000万円の保険金の支払いを受けたほか、合計3、39
    8万1、982円の損害の支払いを受けている。

  2.  


  3. 争点

    被告らは、原告かずゑの常時介護や職業的付添人による介護の必要性を争い、同原告の基礎収入額は、青森県の女子労働者全年齢平均賃金ないしは年齢別平均賃金を基礎とすべきであると主張して損害額を争うほか、本件事故は原告かずゑの後方不注視等の過失によって発生したものであり、その責任の大半は原告かずゑにあるとして、過失相殺がなされるべきであると主張した。


第三 当裁判所の判断

  1. 原告かずゑの常時介護及び職業介護の必要性等について

    証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。


    (一) 原告かずゑは、本件事故後、十和田市立中央病院に入院したが、同原告
    は、意識が朦朧とし鎖骨骨折等の受傷もあったことから、看護婦による看護では足りず、約1か月間にわたり、原告礼子及び同一彦らが24時間体制で介護にあたった。その後、平成9年9月23日から同年10月31日までの間は、家政婦に介護をして貰ったこともあったが、その費用がかさむため、やむなく同日以降、原告かずゑの症状固定までの間は、原告礼子らが終始介護を行った。


    (二) 原告かずゑの症状固定後の現時点における精神神経障害の程度は高度であり、視力障害もあり、移動、食事、更衣、排尿排便、入浴等の基本的な日常生活動作にも他人の介助を必要とし、家の中では火や刃物、屋外では車といった危険の認識ができず、自傷行為や異物摂取、徘徊などもあるため他人の看視が必要である。


    (三)原告礼子及び同一彦は、原告かずゑの介護に追われ、その勤務先からも
    退職せざるを得なくなり、自らの家庭生活にも支障を来すに至った。同原告らは、
    被告立山による本件事故の内容や、同被告が事故後、「原告車両は、時速50`bでいきなり右折してきたので避けられなかった。」等と客観的事実に反する発言をするなどしたことに対して強い憤りを抱いており、その被害感情は依然として非常に厳しいものがある。


    以上の点からすると、原告かずゑが事故後症状固定までの間に要した家族による
    介護や職業的付添人による介護はいずれも本件事故と相当因果関係のある損害というべきであり、同原告は、今後終生にわたり職業的付添人及び家族による常時の介護が必要というべきである。同原告の本件事故による傷害の内容は誠に痛ましいものであり、死にも比肩しうるものというほかはない。また、原告礼子及び同一彦が本件事故により受けた精神的苦痛は誠に筆舌に尽くしがたいものがあったというべきである。上記判断に反する被告らの主張はいずれも採用できない。


  2. 原告かずゑの基礎収入について

    証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告かずゑは、本件当時60歳の健全な
    婦人であって、その家業である稲作やネギの栽培に主体となって取り組むほか、脳障害を有する夫と身体障害者である姑の介護に単独で従事し、その他の家事一切も自ら切り盛りしていたことが認められる。上記のような原告かずゑの事故当時における健康状態、家事労働や農作業労働の内容に照らせば、同原告の基礎収入は全国の賃金センサス平成9年産業計、企業規模別計、学歴計、女子労働者の全年齢平均賃金である年額340万2、100円を基準として算定するのが相当である。


    被告らは、前記基準について青森県の女子労働者全年齢平均賃金ないしは年齢別平均賃金を基礎とすべきであると主張するが、同基準は青森県の女子の賃金労働者の賃金水準を示すものに止まり、これが他の地域と比較し低廉であって、これを上回る給与所得を当該地域内では得ることが困難なことがあるとしても、そのことが、同原告の家事労働や農作業労働について、これを他地域のそれと比較して低減して
    評価する合理的理由となるとは解しがたいから、本件において、同基準を用いるこ
    とは相当でない。上記判断に反する被告らの主張は採用できない。


  3. 過失相殺について

    (一)証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件交差点は別紙図面のような
    形状であって、その南北端に横断歩道が設けられ、交差する道路間には相互に優先関係はなく、交通整理の行われていない変形交差点であり、被告車両の進行していた上市川方面から沢向方面に向かう南北の道路(以下、「本件道路」という。)は、幅員約3bで外側に幅員約1・5bの路側帯の設けられた片側1車線の舗装道路であって、同道路北側から本件交差点に向けてはかなりの傾斜を持った登り勾配となり、本件交差点から同道路南側に向けては下り勾配となっているため、被告車両から交差点南側の本件道路の対向車線等の見通しは極めて良くない状況にあったこと、また、被告車両から本件道路に交差する道路の左右の見通しも街路樹等により遮られ極めて良くないものであったこと、被告立山は、本件現場から約40b余手前の@地点を時速約50`bで走行中、自車から約28b先の路側帯の上付近の地点であるア点を同一方向に向かい走行していた原告車両を発見したこと、同被告は、原告車両を追い越そうと考え、上記発見地点から約12b進行したA地点で進路を右に変更し、同以後は自車右側を対向車線にはみ出した状態で前記速度のまま進行を続け、さらにそのころから前方の注視を欠くに至ったこと、他方、原告かずゑは、右折するため、その直後ころ、場所不詳の本件道路路側帯付近から道路中央方面に向けて進路を右に変更し徐行進行したこと、しかるに同被告は、前方の注視を欠いていたためこれに気付かず、前記自車進路変更地点から約16・7b進行したB地点に至り、初めて原告車両が約9・1b手前の同車線中央部付近のイ地点を右方向に向けて徐行速度により走行するのを発見し、危険を感じ右へ急転把し急制動したが及ばず、本件交差点手前約10b付近の本件道路の中央線上付近であるウ地点で自車の左前部を原告車両と衝突させこれを転倒させるに至ったこと、がそれぞれ認められる。


    (二)そこで検討するに、前認定のとおり、被告車両の進路前方には横断歩道
    が設けられた本件交差点があり、本件道路は登り坂の頂上付近であって本件交差点から南側の対向車線等の見通しは良くなく、その交差道路の左右の見通しも良くなく、かつ前方には原告車両が進行していたのであるから、かかる状況下では、被告立山としては、同車両の追い越しを厳に差し控えることは勿論、速やかに自車を時速約10`b程度の直ちに停止できる速度まで必ず減速させて徐行を開始したうえ、同以後は同速度で進行する原告車両に追従進行し、前車の動静や交差点内の状況等に細心の注意を払いながら進行すべきであったことはおよそ多言を要しないところである。しかるに同被告は、上記注意義務を悉く怠り、漫然徐行はおろか減速もしないまま、前記のように自車右側を反対車線にはみ出した状態で原告車両を追い越すべく時速約50`bの高速度で進行を続け、しかも前記のようにB地点に至るまで原告車両の動静の注視も怠っていたものであって、その注意義務の懈怠の程度は著しく顕著である。他方、原告かずゑは、右折の準備として前記のように交差点の手前で進路を変更し徐行しながら中央線付近に至ったものと認められるところ、上記進路変更の態様その他の同原告の運転方法には、落ち度と評すべき点はほとんど見受けられない。


    (三)被告らは、その趣旨に明確を欠くが、「原告車両は、進路変更にあたり
    後方の注視を怠った」、「原告車両は、直進する被告車両の前で急に進路を変更した」との趣旨の主張をしている。しかしながら、本件においては原告車両が進路を変更した位置や時期、その後の進行経路等については何らの特定も立証もなく、上記主張を認めるに足りる証拠は何もない。かえって、前記認定のような被告立山が原告車両との衝突の危険を感じた時点における両車両の位置関係、進行速度等に鑑みると、原告車両が進路変更を開始する直前に後方を注視すべきであったと考えられる時点においては、被告車両は原告車両の約20b以上後方を進行していたことが推認されるところである。そして、被告立山が、前記のように@地点から徐行義務を遵守して減速進行に移行していることを前提とすれば、原告車両の上記進路変更は十分な車間距離をもってなされたものというべきである。また、原告かずゑにおいて、後方を注視し被告車両を発見したが、本件当時の前記道路状況に鑑み、同車両は自車に対して追い越しを差し控え、自車同様の速度に減速、徐行して自車に追従するものと信頼しこれを予測していた可能性も否定することはできない。これらの車両間の距離や本件道路の状況等の客観的事実に照らせば、原告車両の本件における進路変更が危険な態様であったとか、原告かずゑが後方注視を怠ったとの点にはいずれも疑問が大きい。加うるに、被告車両は、前記のように、本件では追い越し禁止や徐行義務等の種々の交通法令に大きく違背する危険な走行方法に及んでいたものであるから、このような車両が前車に対して優先権を主張し得る直進車両と解する余地はおよそないものとするのが相当である。したがって、原告かずゑの本件における進路変更に被告ら主張のような落ち度があったとはにわかには認めがたい。


    被告らは、また、原告車両が本件交差点の手前であらかじめできるだけ中央に寄
    らなかったとして、この点をも同原告の走行方法の過失であると主張する。しかし
    ながら、右折車両が右折に先立ち交差点のどの程度手前で道路中央に寄るべきかについては、当該道路状況等により個別具体的に決されるべきものであるが、前掲各証拠によれば、同原告は、少なくとも本件交差点の北側側端から約10bの地点である×地点では中央線にそって走行する体勢になっており、その手前の地点であるイ点では同車線のおよそ中央付近を走行しており、これより手前の場所不詳の地点では被告車両とは十分な車間距離をもって右に進路変更を開始していたことが認められ、これに加えて、同原告が右折の合図をしなかったとの立証がないこと、本件道路が前記ように追い越しを厳に禁止される場所であって、かつ原告車両に後続する走行車両においては、先行する右折車両の有無とかかわりなく前記した速度をもって必ず徐行し、原告車両に当然追従すべきことが要請される道路状況にあったことを併せて考えるときには、原告車両の上記右折準備の方法が後続車両に対する右折の合図として適切を欠くものであったということはできない。


    したがって、被告らの前記主張はいずれもその前提を欠いており、とり得ない。
    被告らは、その他にも原告車両の運転方法の落ち度を論難し、被告車両の責任の軽減を図ってさまざまな主張を展開しているが、いずれも失当であって当裁判所のとるところではない。


    以上の諸点に加え、原告車両が原動機付自転車であり被告車両が貨物自動車であったことも勘案すると、本件において、原告かずゑの右折方法に多少の落ち度があるとしても、その程度は被告立山の注意義務違反と比較すればごく僅少なものというほかはないから、同原告の過失割合は5%とするのが相当である。


  4. 前記認定判断を骨子として、原告らの損害額を算定した結果は別紙損害額

    計算書のとおりである。


    以上によれば、原告かずゑは、被告らに対し、連帯して9、846万1、269
    円、及び、内金9、449万5、516円に対する本件事故の日である平成9年8
    月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員、原告礼子及び同一彦は、被告らに対し、連帯してそれぞれ290万円、及び、これに対する同日から支払い済みまで年5分の割合による金員の各支払いを求める権利を有するものということができる。


    したがって、被告らに対し上記金員の支払いを命じることにし、主文のとおり判決する。