高次脳機能障害の後遺障害等級

高次脳機能障害の後遺障害等級

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高次脳機能障害の後遺障害等級

1 高次脳機能障害の自賠責後遺障害等級

 

高次脳機能とは、高いレベルの脳の働きのことです。つまり、過去の物事を記憶したり、その記憶を基に判断したり、物事に注意を向け、また人格などを作り出している機能のことです。

 

脳の障害には、脳が器質的に損傷したことによる「器質性の障害」と脳の器質的損傷が認められない「非器質性の障害」とに分類されますが、一般的に交通事故の高次脳機能障害という場合には、脳が器質的に損傷した「器質性の障害」の場合を指します。

 

交通事故によって頭部外傷を受け、意識障害を起こし、脳質拡大や縮小等の過程を経て、その回復後に認知障害(記憶力障害、集中力低下など)や人格変性(攻撃性、幼稚性など)が生じた状態を高次脳機能障害といいます。

 

高次脳機能障害はその症状から、「神経系統の機能又は精神に著しい障害」にあたるものとして、それぞれ、別表第1・1級1号、同・2級1号、別表第2(以下同)・3級3号、5級2号、7級4号、9級10号に分類されています。そして、そのいずれの等級に該当するかについては、従来の等級表に加えて、高次脳機能障害認定システム確立検討委員会の平成12年12月18日付報告書「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」によって「補足的な考え方」が付されました。

 

高次脳機能障害については、その程度に応じて以下のとおり後遺障害等級が認められています。

 

別表第1、1級1号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」

 

<補足的な考え方>

身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、 生活維持に必要な身の回り動作に全面的介助を要するもの


※生活維持に必要な身の回り動作=食事・入浴・ 用便・更衣等

 

別表第1、2級1号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」

 

<補足的な考え方>

著しい判断力の低下や情動の不安定などがあり、1人で外出することができず、日常活の範囲が自宅内に限定されている。身体動作は排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの

 

別表第2、3級3号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」


<補足的な考え方>

自宅の周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、 介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶力や注意力、新しいことの学習能力障害の自己認識、 円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの

 

別表第、5級2号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」


<補足的な考え方>

単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの

 

別表第2、7級4号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」


<補足的な考え方>

一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの

別表第2、9級10号

 

<認定基準>

「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」


<補足的な考え方>

一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

 

2 労災における後遺障害認定等級

ア 労災における基準の改正

労災においては、平成15年6月付「精神・神経の障害認定に関する専門検討会」による報告書において、高次脳機能障害などの近年になって広く認知されるに至った障害について従来の方法のみによって判断することの不十分性が指摘され、高次脳機能障害について障害評価の新たな基準が提唱されました。
これを受けて発せられた、平成15年8月8日付厚生労働省労働基準局長通達(「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」)によって労災保険の神経系統の機能又は精神の障害に関する認定基準が改正され、高次脳機能障害による症状に対応した、より適切な認定ができるようになりました。
精神・神経の障害認定に関する専門検討会による平成15年6月付報告書において、障害評価について指摘された事項については以下の通りです。
「高次脳機能障害は脳の器質的病変に基づくものとされていることから、MRI、CT、脳波などにより高次脳機能障害の原因が脳の器質的病変に基づくと診断されることが必要である。」
「高次脳機能障害を有する者の中には、食事・入浴・用便・更衣等にも介護が必要な者のほか、食事・入浴・用便・更衣等は概ね自立しているものの、自宅外の行動が困難で外出等をするに際して随時介護が必要な者が少なくない。
このような重度の高次脳機能障害を有する者が労務に就けないことは明らかであるから、高次脳機能障害の障害の程度を確認するとともに、高次脳機能障害による食事・入浴・介護等の日常生活動作及び外出、買い物等の生活行動についての介護の要否及び程度についてまず調査を行い、常時又は随時のいずれの介護も不要である場合について、4能力の低下の状態を基本として、高次脳機能障害整理表に掲げられた例も参考に労働能力の喪失程度を判断することが適当である」

イ 改正された新たな基準

まず、労災は職業生活を前提とするものですから、職業生活に重要な能力として、

  • @意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
  • A問題解決能力(理解力、判断力等)
  • B作業負荷に対する持続力・持久力
  • C社会行動能力(協調性等)

 

の4能力の低下に着目することとしており、上記のとおり、いずれの介護も不要である場合についてその能力の喪失の程度によって等級を認定することとしました。

そして、4能力の低下の有無・程度の評価における要点は以下のとおりとされました。


@ 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等) 

職場で他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力、認知力、言語力の側面から判断を行う。
A 問題解決能力(理解力、判断力等)

作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかについて判定する。主に理解力、判断力、注意の選択力について判断を行う。


B 作業負荷に対する持続力・持久力

一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかについて判定する。精神面における意欲・気分・注意の集中の持続力・持久力についてなどの判断を行う。その際、意欲・気分の低下などによる疲労感、倦怠感を含めて判断する。


C 社会行動能力(協調性等)

職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定する。主に、協調性や不適切な行動(突然たいした理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。


これらの要点を踏まえ、4能力それぞれの喪失の程度について「高次脳機能障害整理表」としてまとめられました。

そして、障害評価にあたっての留意事項においても述べられているように、被害者についてまず介護の要否の調査を行い、常時または随時の介護も不要である場合には、このように整理された4能力の喪失の程度によって、従前の障害認定基準の区分に当てはめることとしました。


それぞれどの等級に該当するかについての具体的な基準は以下のとおり。

 

第1級の3 重篤な高次脳機能障害により食事・入浴・用便・ 更衣等の日常生活動作が出来ず常時介護を要するもの又は高次脳機能障害による痴ほう、情意の荒廃があるため、 常時監視を要するものが該当する。
第2級の2の2 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応はできるが、自宅外の行動が困難で、 随時他人の介護を必要とするもの又は高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、 頻回の発作性意識障害のため随時他人による監視を必要とするものが該当する。
第3級の3 高次脳機能障害のために4能力のいずれか1つ以上の能力について「できない」 状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2つ以上の能力について「困難が著しく大きい」 状態に該当すると認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1つ以上の能力について「できない」 状態に相当すると考えられるものが該当する。
第5級の1の2 高次脳機能障害のために4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難が著しく大きい」 状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2つ以上の能力について「困難はあるがかなりの援助があればできる」 状態に該当すると認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1つ以上の能力について 「困難が著しく大きい」状態に相当すると考えられるものが該当する。
第7級の3 高次脳機能障害のために、4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難はあるがかなりの援助があればできる」 状態に該当すると認められるもの又は4能力のいずれか2つ以上の能力について「困難はあるが多少の援助があればできる」 状態に該当すると認められ、これらの状態の全体を捉えた場合には4能力のいずれか1つ以上の能力について 「困難はあるがかなりの援助があればできる」状態に相当すると考えられるものが該当する。
第9級の7の2 高次脳機能障害のために、4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難はあるが多少の援助があればできる」 状態に該当すると認められるものが該当する。
第12級の12 MRI、CT等により多角的に証明される軽度の脳挫傷、脳出血又は脳波の軽度の異常所見が認められるものであって、 4能力のいずれか1つ以上の能力が 「困難はあるが概ね自力でできる」に該当すると認められるものが該当する。
第14級の9 MRI、CT、脳波等によっては、脳の器質的病変は明らかではないが、頭部打撲等の存在が確認され、 脳損傷が合理的に推測されるものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難はあるが概ね自力でできる」又は 「多少の困難はあるが概ね自力でできる」ような状態に該当するものが該当する。

 

3 自賠責の考え方と労災の基準との整合性をどう考えるか

このように自賠責および労災においてそれぞれ高次脳機能障害に対応した基準が作成されていますが、現実に被害者の後遺障害等級を認定する際にこれらの基準をどのように用いるべきか、両者の整合性が問題となります。
この点については、あくまで自賠責と労災が同一の目的を有するものではないことから、「従前の考え方を用いて後遺障害等級を認定した後、労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し、最終結論とすることが労災保険に準拠する自賠責保険としての妥当な認定方法と考える。」「実際の検証作業に当たっては、従前の整理に従い、労災認定基準と自賠責保険の等級認定の考え方との間の対応関係を明確にし、仮に「高次脳機能障害整理表」を用いた等級評価と自賠責保険での等級評価が異なる場合は、その根拠を明確にし、労災との相違点を整理」するものとしています(平成19年報告書)。

 

4 等級認定上の問題点

ア 資料の信用性の問題

自賠責における等級認定は、医師による所見をまとめた意見書(神経心理学的検査)および家族等による日常生活状況についての報告書による照会結果を中心として判断されます。
しかし、両者は作成者の主観的判断をまとめたものであるというその性質上、障害等級認定の基礎とするにあたり、その内容の信用性について疑義の生じる場合も起こりえます。
両者の内容がほぼ一致するものである場合にはその信用性は原則として問題とならず、そのまま等級評価の基礎としても問題がない場合が多いものと思われますが、両意見書から導かれる等級該当性の判断が矛盾する時には特に問題となります。
医師による所見は医学的かつ客観的な見地からの意見であることから、ある程度の信用性は認められやすいと言えるでしょう。しかし、他方で高次脳機能障害を負ったことによって生じた生活状況の変化については、事故に遭う以前から被害者に日常的に接している家族や実際に間近で触れている介護者等でなければ分からないことが多く、日常生活状況報告表もまさにそのような事項についても聴取しているのですから、両者から導かれる判断が食い違う場合、直ちに医師による所見から導かれる認定結果を優先することは妥当ではありません。
結局のところ、事案によって個別に判断するほかはありませんが、それぞれの門外とされている場面を念頭に置いた上で、慎重に判断する必要があります。

イ 小児・高齢者について

労災認定基準は上記の4能力について、ある程度細かい分析を行った上で等級認定をするものですから、同基準を参考にすることは、その妥当性について大いに有意義である反面、その性質上就労者を対象としていることから、上記4能力も、当然就労を含めた社会生活上の喪失の程度を考慮することが想定されています。
よって、非就労者である小児や、加齢による認知症等の症状を併発しうる高齢者ついては、必ずしも双方の基準をそのまま当てはめることが妥当とは言えず、どのように修正を図るかが問題となります。
この点平成19年2月報告書は、小児については、「事故後の各種能力(学習能力等)の獲得や集団生活への適応能力に与える高次脳機能障害の影響を勘案」することとし、高齢者については、「加齢による症状の変化を勘案した上で妥当な後遺障害等級を認定すべき」としています。

ウ 労働能力の評価

高次脳機能障害には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれます。
すなわち、高次脳機能障害として事故によって被害者に生じた障害を考慮するとき、認知障害だけではなく、行動障害および人格変化を原因とする社会行動障害についても判断されています。
高次脳機能障害は、労災基準に挙げられる4能力を見ても分かるように、様々な神経心理学的症状を包括的に指す言葉であり、被害者によってそれらの喪失の程度も被害者ごとによって異なるものであり、その中でも、特定の作業をこなすことができても、人格変化等により他人との社会生活を送ることができない者もいます。
そのような場合には、ある特定の作業(下記平成19年報告書でも挙げられているような、インターネットでホームページを眺めたりすることなどにとどまらず、やや複雑な作業も含む)をこなすことができたとしても、そのような点のみを捉えて軽度の等級認定をするべきではありません。その作業をこなすことができたとしても、高次脳機能障害としての社会的行動能力の低下のためにその能力を活かす環境に受け入れられることができないのであれば、その作業をこなすことができる能力はゼロに等しくなってしまうからです。
このように、高次脳機能障害においては、社会行動能力の喪失の有無・程度が重視されなければなりません。
このような問題点を踏まえて、平成19年報告書でも、以下のようにまとめられています。
@ 著しい知能低下や記憶障害は、就労能力を当然のことながら低下させる。しかし神経心理学的検査で知能指数が正常範囲に保たれている場合でも、行動障害および人格変化に基づく社会的行動障害によって、対人関係形成などに困難があり、通常の社会および日常生活への適応に難渋している場合には相応の等級評価をすべきである。
A 社会的行動障害によって就労が困難な場合でも、TVゲームを操作したり、インターネットでホームページを眺めたりするなどの能力を有する場合がある。日常生活報告欄に、これらを行っていると記述されている場合、これをもって就労可能と判断すべきではない。
B 学校生活に求められる適応能力と職業生活に求められる職務遂行能力には違いがある。学校では自分が好まない対人関係を避けることができる場合が多い。しかし、就労場面ではこのような選択ができにくいために対人的葛藤を起こしやすくなる。したがって、学童・学生について将来の就労能力を推測するとしたら、学業成績の変化以外に、非選択的な対人関係の構築ができているかなどを評価し、これを労働能力に勘案すべきである。
C 知能指数が標準範囲であっても、社会的行動障害が阻害要因となって就労困難な場合があることをすでに述べた。同様に、一般交通機関を利用した移動能力と労働能力喪失の程度は必ずしも一致しない場合がある。併せて、脳外傷を示す画像所見が軽微な場合でも、労働能力がかなりの程度損なわれている場合がある。
D 18歳未満の児童で受傷前に就労していた被害者については、一般の就労者と同様に取り扱うこととする。