後遺障害非該当

後遺障害非該当

tel0120-962-845
受付時間 平日10:00〜18:00
みらい総合法律事務所
〒102-0083 東京都千代田区麹町2丁目3番 麹町プレイス2階

後遺障害非該当

交通事故で傷害を負った場合に、それ以上治療をしても、改善の見込みがない状態になると、「症状固定」となる。
症状固定となると、損保料率機構で、後遺障害等級に該当するかどうかの調査が行われることになる。

この調査で後遺障害等級(14級まである)に認定された場合には、民事裁判で有力な証拠となる。

裁判で後遺障害が認定されると、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料が加わり、数百万円、数千万円が加算されることになる。

したがって、交通事故民事損害賠償において、後遺障害の有無は極めて重要である。


自賠責の後遺障害等級認定と民事訴訟における後遺障害認定の関係については、東京 地裁民事27部は、別冊判例タイムズno16「民事交通訴訟における過失相殺率の 認定基準」12頁、15頁で次のように述べている。
「裁判手続での後遺障害の認定は損保料率機構の事前認定に拘束されるものではなく、裁判所が、訴訟に現れた全証拠から自由な心証に基づいて判断するものである。 しかし、損保料率機構で後遺障害等級のいずれかの等級に該当すると認定されている場合は、・・・被告からの十分な反証のない限り、同様の等級を認定し、・・・(原告が)これを超える労働能力喪失率と慰謝料を主張する場合は、原告にその立証が求められる。」「労働能力の低下の程度については、労働能力喪失率表を参考としながら、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的に評価することになる。」
以上の見地から考えると、後遺障害が残存していると考えられる場合には、まず自賠責保険(または労災保険)の後遺障害等級認定の調査が重要であり、その結果に不服がある場合には、必ず有力な資料を添えて異議申し立てをすべきということになる。そうでなければ、裁判所は、基本的に、後遺障害等級認定どおりの判断を下してしまう。
仮に異議申し立てを何度行っても全て却下されたらどうするか。
まず、自賠責保険等の調査により後遺障害等級非該当、つまり後遺障害が認定されなかった場合について検討するが、この場合でも、判例では、後遺障害を認定している事案がある。そこで、後遺障害非該当であった事案の分析をしてみたい。
赤い本2003・270頁、元東京地裁民事27部河邉義典裁判官講演録において、具体例をあげて説明があり、参考となるので、引用する。
「後遺障害等級非該当とされた足関節の機能障害について労働能力喪失を認めた事例として、東京地判平成14・6・20判時1795・124があります。これは、患側の足関節の可動域が健側の足関節の可動域の83%程度に制限されている事案について、後遺障害等級表12級7号に該当するには75%以下に制限されることが必要とされていて、後遺障害等級表に該当する後遺障害ではないが、原告が看護婦という比較的足に負担のかかる職業に就いていることを考慮し、症状固定時から5年間について10%、その後の5年間について5%の労働能力喪失を認めたものであります。労働能力喪失期間を10年とし、かつ労働能力喪失率を逓減させたのは、可動域制限の原因が、足関節自体の器質的変化によるものではなく、骨折の治療のために髄内釘が挿入固定され、足関節の動きが制限されていたことによることを考慮したものであります。」
用語の解説をすると、「患側」とは患った側のことで、「健側」とは健康な方の側という意味である。足関節の可動域を診断するときは、患側と健側の可動域を比較して行う。また、「後遺障害等級認定12級7号に該当するには、 75%以下に制限されていることが必要」というのは、労災補償における「障害等級認定基準」に従ったものである。
要するに、この判決は、「後遺障害等級認定基準には該当しないけれども、後少しで該当したこと、現状では現実的減収は発生していないけれども、労働能力に制限が発生したことは明らかであるから、ある程度は後遺障害を認めよう。」という発想である。

他の判例も検討してみる。


大阪地裁平成13年3月23日判決(交民34巻2号429頁9)は、15歳女子の両眼の調節機能障害(ピントが合わない、光がまぶしい等)の事案で、後遺障害等級認定非該当となった事件で、後遺障害等級11級、労働能力喪失率20%、67歳まで労働能力喪失期間を認めました。
非該当となった理由は明らかではないが、事故の約1ヶ月半ころに初めて症状を訴えたこと、ほとんど病院に通っていないこと、等から、本件事故との因果関係を否定したのではないか、と思われる。しかし、本判決は、症状に一貫性があること(診療経過、経過診断内容が重視されています)、本件事故以外に両眼の調節障害を引き起こす直接の原因が考えられないこと、等を理由に因果関係を認めました。但し、適切な時期に治療していないこと等を理由に、40%損害額から減額している。
岡山地裁平成12年6月23日判決(交民33巻3号1013頁)は、50歳の女性の左下肢の神経症状につき、後遺障害等級認定非該当になった事案に関して、後遺障害等級12級12号に該当するとし、労働能力喪失率を14%、67歳まで労働能力喪失期間を認めた。

非該当となった理由は、整形外科の初診時にレントゲン画像で異常所見が見られなかったこと、転医した整形外科医院でも初診時のレントゲン画像診断に著変がなく、神経学的所見がとられなかったこと、が重視されている。


しかし、前記判決は、本件事故前は、何ら左下肢に障害がなく、被害者の左腓骨神経麻痺の発生原因としては本件事故において被害者の左膝が受けた衝撃以外に考えられないこと、本件事故後の治療経過と神経症状の出現経過、本件神経症状は自覚症状だけでなく他覚所見も認められるに至っていること(かなり要約しています)、等を理由に本件事故との相当因果関係を認め、後遺障害を認定した。
事故前には何ら障害が認められなかったこと、治療の経過と症状出現の経過、一貫性、他に発生原因が認められないこと、等が重要である。
浦和地裁平成12年3月29日判決(交民33巻2号639頁)は、女性の椎間板ヘルニアについて後遺障害等級認定非該当になった事案に関して、後遺障害等級7級4号(神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することがでいない)に該当するとし、労働能力喪失率を56%、67歳まで労働能力喪失期間を認めた。
非該当となった理由は、治療経過において、多彩な症状が訴えられ、各診断書ごとに症状部位が異なっており、一貫性に乏しく、不定愁訴と判断されること、傷病名は単に被害者の自覚症状を記載したものであり、画像からも器質的変化が認められないこと、傷病名と検査所見との間に矛盾が生じていること、などである。
これに対し、前記判決は、後遺障害診断書上に他覚所見が認められること、診断書上の多彩な愁訴の主要な点は概ね一貫していること、椎間板ヘルニアは事故から一定期間経過後に発現したが、事故前には腰痛や右下肢痛等の自覚症状がなかったこと、事故後右下肢痛等が徐々に悪化し、約4ヶ月後に椎間板ヘルニアを窺わせる所見が得られるようになったこと、等の経過から、事故と椎間板ヘルニアとの相当因果関係を認めた。
他覚所見の存在、一貫性、治療経過と症状出現の合理的関係等が重要である。

神戸地裁平成13年1月17日判決(交民34巻1号23頁)は、58歳男性の後遺障害(頚部及び腰部の神経症状、後遺障害等級14級)及び左肘関節の機能障害(非該当)について、全体として、労働能力喪失率を10%、72際まで労働能力喪失期間を認めた。


左肘関節の機能障害については、認定基準に至らないとの理由で後遺障害等級認定は非該当となった。
これに対し、前記判決は、左上肢の筋力低下・痺れ感、左肘部の運動時痛などが残存し、実際には左手を正常に使えなくなり、現場技術者としての職務のみならず、デスクワークにおいても、製図や電卓等の作業能力が低下したこと、杖をつかなければ歩行が困難であること、右手に重い物が持てないこと等といった数々の日常生活上の支障が生じていること、を理由として、10%の労働能力喪失率を認めた。なお、14級の労働能力喪失率は、標準で5%であり、13級は9% である。
認定基準に至らなくても、他覚所見があること、日常生活上の支障、職務上の支障が生じていることの立証が重要である。
以上の各判例を見ると、加害者側から非該当の理由として主張されるのは、次のような要素である。
(1) 多彩な症状が訴えられ、各診断書ごとに症状部位が異なっており、一貫性に乏しいこと。

(2) 傷病名は単に被害者の自覚症状を記載したものであること(他覚所見がないこと)

(3) 画像から器質的変化、異常所見が認められないこと。

(4) 傷病名と検査所見との間に矛盾が生じていること。

(5) 神経学的所見がとられなかったこと。


そのような中で、後遺障害等級認定が非該当であっても、次のような要素があれば、労働能力喪失を認定する場合があることがわかる。

1. 事故との因果関係について

(1) 事故前には症状がなかったこと。

(2) 事故以外に症状発現の原因が見あたらないこと。

(3) 症状の一貫性(主要な点の一貫性)

(4) 治療経過と症状出現の合理的関係

(5) 他覚所見の存在

2. 後遺障害等級表の認定基準に満たない場合について

(1) 職務上、当該障害が支障を生ずること。

(2) 日常生活上の支障

(3) 認定基準には満たないとしても、後少しで認定基準に達したこと。


したがって、治療時より、主治医に対する自覚症状の訴えは一貫したものでなければならないし、診断書を書いてもらうときも症状の一貫性を重視し、記載漏れ等がないようにしなければならない。
また、事故前に障害が全くなかったことを主張すること、職務内容の具体的主張と障害との関係を立証すること、日常生活上の支障をビデオ、日記等で立証すること、等も重要である。